大判例

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宇都宮地方裁判所 昭和25年(行)36号 判決

原告 床井信三郎

被告 物部村農地委員会

補助参加人(被告側) 栃木県農地委員会

一、主  文

原告の請求は棄却する。

訴訟費用は全部原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は請求趣旨として被告が別紙目録記載の農地につき昭和二十四年六月十六日為した買収計画は取消す。訴訟費用は被告の負担とする判決を求むる旨申立て、其請求原因として、別紙目録記載の農地は原告の所有であるが原告は大正七年三月十八日当庁に於て放火窃盜罪により懲役十年に処せられ小田原刑務所にて服役していたが、大正十二年九月一日の関東大震災に遭い生死不明となつた。前記農地は同人の財産管理人床井ハルが管理しているのである。ところが被告は昭和二十四年六月十六日右農地につき買収計画を決定した。これに対し右床井ハルは同月二十二日異議を申立てたが、同年七月六日却下されたのでこれに対し同月二十一日参加人に訴願したが未だ裁決はない。被告の買収理由は原告を不在地主とするにある。しかしそれは自創法第三条第一項第一号の解釈を誤つている。即ち同法第一項には所有者が其住所のある市町村の区域外に於て所有する小作地とあり、この場合には文理解釈上所有者の住所が現に存在することを前提とする。所有者が小作地の所属する市町村区域外に於て自由刑の執行を受けつつあり、または其所在地が不明である場合、殊に既に死亡しているとすれば該農地は不在地主を理由として買収できない。従つて前記買収計画は違法である。次に自創法第四条第二項、第二条第四項、施行令第一条によれば農地所有者が選挙による公務就任その他の事由で一時同居の親族若しくはその配偶者と同居しなくなつたときは農地所在の市町村農地委員会は一時同居しないことを己むなくさせた事由と認め、府県農地委員会の承認を受くべきであるが、前記農地については原告は当時懲役刑の執行を受くる為該農地の所在する物部村に居住しなくなつたものであり、原告の母床井ハルが同居していたのであるから被告委員会はこの事由を認めて参加人委員会にその承認を受くべきものであつた。この手続を経て自創法第四条第二項により原告は前記農地所在地の市町村区域内に住所を有する者と見做されるのである。従つてこの手続を履まないでなされた前記買収計画は違法である。よつて本訴請求に及ぶと陳述し施行令第一条につき申請手続は履践してないがその必要がないのであると述べた。(立証省略)

被告及参加人指定代表者は主文同旨の判決を求め答弁として、法定代理人床井ハルは原告の財産管理人に過ぎないから本件訴訟の法定代理人とはなれない事実については原告主張事実中、農地所有の点、懲役刑言渡の点、買収計画買収理由の点、異議却下訴願の点は認めるがその他は否認する。原告は十年の懲役の執行を受ける為め物部村に居住しなくなつたのであるが、言渡は大正七年三月であるから昭和三年三月には刑の執行を終り帰村し得たものであるので自創法第二条第四項、施行令第一条の特別事由に該当するものではない。仮りに特別事由が成立つとしても施行令第一条第四号に規定する市町村農地委員会の認定及び府県農地委員会の承認は先づ農地の所有者側から申請書を当該農地委員会に提出しなければならない。そのことは栃木県では昭和二十二年三月十九日栃木県令第二十号によつて明かにされている。しかるに原告としてはこの申請手続を行つてない。よつて原告の請求は全く失当である。尚前記農地は昭和二十五年三月二日売渡処分が完了していると述べた。(立証省略)

三、理  由

先づ原告法定代理人床井ハルに本件訴訟を為すの権限があるかどうかを考えるが、床井ハルは原告の不在者たることを理由とする財産管理人であることは記録上明かであるので、その私法上の権限は原告の財産に関する保存行為の範囲に限られ、これを超ゆる行為を為すには裁判所の許可が必要であることは勿論である。しかるに原告所有の農地は農地委員会によつて買収計画の対象とされたのであつて、このままに打過ぎるなれば県知事の買収処分によりその所有権は喪失するに至るのは自明の事柄である。しかもこれに対し不服の訴を提起するとすれば、一ケ月乃至二ケ月の出訴期間が定められている。斯かる場合不服を理由として本件の訴の如く原告の農地につき買収計画取消の訴を提起することは寧ろ原告の財産を保存する結果となるものと謂わねばならない。しからば本件訴に於ては法定代理人床井ハルの保存行為として許さるべきで、その権限あるものと解して差支ない。よつて本案に入り審按する。別紙目録記載の農地が原告の所有であり右農地につき被告が昭和二十四年六月十六日買収計画を決定したことは当事者間に争はないが、原告は不在地主ではないと争うのである。右買収計画の理由が不在地主であり原告が大正七年三月十八日当庁で放火窃盜罪により懲役十年に処せられ物部村に居住しなくなつて刑務所にて服役したことも当事者間に争はない。ところが成立に争はない甲第二号証によれば、原告は横浜刑務所に於て右服役中関東大震火災により解放出所したままとなつていることが認められる。尤も証人床井金作の証言によれば、小田原刑務所で服役していたようであるが、甲第二号証を信用する外はない。しからば前記買収計画の決定当時は刑執行の為め物部村に居住しなくなつている場合に該当するものと解される。しかし自創法第三条第一項第一号の不在地主とは原告の主張するが如きものでなく、農地のある市町村区域に農地所有者の住所のない場合の総てを含むものであり、従つて刑執行の為め或は行方不明等の場合もこれに含まれることは自創法の目的精神より考察して左様に解すべきである。このことより生ずる矛盾はないでもない。それは他の法条によつて正しく救済されているのである。この点原告主張は理由がない。次に前認定の通り原告は刑執行の為め農地のある市町村の区域に居住しなくなつたのであるとすれば、自創法第四条第二項に該当することは原告の主張が正しい。しかし施行令第一条によれば市町村農地委員会がこの事由を以て一時同居しないことを止むなくさせた事由と認め、これに基き県農地委員会の承認を受くることを要するのであるが、当然この手続はなされるのであるか、同居者の申請をまつのであるかは当事者の争ふところである。この点につき栃木県に於ては昭和二十二年三月十九日県令第二十号(乙第九号証)により承認申請書を提出すべきことが定められているのである。思うに農地所有者に施行令第一条の定める事由が生じたかどうかは具体農地の所有者の同居者等が知悉するところである。これを自創法関係行政庁の職権発動を要求して義務づけることは自創法の精神であるとは解し難い。寧ろ具体的関係者の申請をまつこととすべきである。前記県令もこの主旨に従つたものである。しかるに原告方でこの県令の定める申請手続を履践してないことは原告の認めて争はないどころかその必要がないと主張しているのであるから右見解に従う。以上原告の主張は否定されねばならない。尚原告が死亡していることの証拠はないのである。しかれば原告の本訴請求は総て失当として棄却は免れない。尤も被告等の右申請に関する行政的措置としては遺憾の点はなかつたとは断言できない。訴訟費用の点については敗訴原告の負担とする。以上の通りで主文の通り判決する次第である。

(裁判官 岡村顕二)

(目録省略)

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